REPORT:硯職人弟子入り体験プログラム

REPORT:硯職人弟子入り体験プログラム

2014年1月31日から二泊三日で「硯職人弟子入り体験プログラム」が開催されました。東京から書道家、デザイナー、建築家などが集まり、雄勝硯生産販売組合で唯一の硯職人、遠藤市雄さんによる指導の下、硯の製作をおこないました。

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「四五平(しごひら)」(縦13.5cm横7.5cm)と呼ばれる標準的なサイズの硯。今回は特別にボール盤で下加工された雄勝石をノミで彫っていきます。

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硯製作用の作業台。
硯専用のノミを三本、彫る箇所毎に使い分けます。

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指導にあたる、硯職人の遠藤さん。

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ノミの柄の先端を肩に当て、右手を刃の付け根に添え、体全体を使って彫っていきます。ベテランの職人さんの肩には、このノミが当たる部分が固くなり、タコになっているそうです。

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硯の各部分には名称があり、墨汁が溜まるくぼみを「海(うみ)」、墨を削る平らな部分を「陸(おか)」と呼びます。まず先に海を彫り、つぎに陸の表面を平らなノミを使って整えていきます。

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硯の形ができました。
ここまでの作業を二日がかりでおこないました。職人さんは同じ作業を一時間もしないうちに終えてしまうそうです。

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次に場所を変え、表面を磨く仕上げの作業をします。

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まず砥石でノミの刃跡を削り取り、次に耐水ペーパーで表面を磨きます。薄いグレーがかった雄勝石は、水に濡れると真っ黒になり光沢を帯びてきます。滑らになった硯の表面はキメが細かく、ずっと触っていたくなるような気持ちのよい質感です。

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三つの小さな海を持つ硯を作った参加者も。

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ペーパーで磨き終わると、泥砥石で陸の表面を研ぐ「目立て」をします。書道の世界では、墨がよく擦れる硯のことを「鋒鋩(ほうぼう)が立っている」と言います。鋒鋩とは墨を削り取る細かい刃のようなもので、この目立てによって墨が擦れるようになるのです。

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いよいよ最後の工程、着色です。硯の表面に脱脂綿で墨汁を薄く塗っていきます。墨が乾くと表面は黒いマットな質感に変わります。艶を出したい場合は着色後さらにワックスを塗ります。

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出来上がった硯をさっそく使ってみます。まず海に水を注ぎ、墨で水を陸へ引き上げて、擦っていきます。指先に伝わる、鋒鋩に墨が食い込む感触。みるみるうちに水が墨汁へと変っていきます。

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久しぶりに筆を持った参加者も、日々半紙に向かっている書道家も、自作の硯で墨を擦って文字を書くのは、生まれて初めての体験でした。

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参加者たちの作品。同じ材料を彫って作った硯でも、海の広さ、陸から海へ下る斜面の勾配、角の丸み、硯の厚みの違いで全く表情が異なり、硯作りの奥の深さを感じます。

今回の硯作りを通して、書道から遠ざかっていた参加者たちも、自分で作った硯に合う墨と筆を探してみようという気持ちになりました。雄勝硯生産販売組合では、このようなワークショップを今後定期的に開催していくそうです。より多くの人が雄勝を訪れ、硯作りを体験していただき、書道という文化の裾野が再び広がっていくことを願います。

2014.3.13(木)