日本製の硯の90%を生産していたといわれる
宮城県石巻市雄勝の硯産業。

歴史は古く室町時代にはじまり、その後は伊達藩に保護され、職人の高い技術が継承されてきた雄勝硯。昭和の後半まで学童硯を中心に産業として栄えましたが、産業としては衰退傾向にあり、そして2011年3月11日に発生した東日本大震災で壊滅的打撃を受けました。現在、現地に残る硯職人もたった一人となってしまい、硯の生産はもとより、後継者の育成にも光が見えない状況です。

日本全体を見渡してみると、硯を使って墨をする本来の書道のスタイルは陰を潜め、学校などでの授業でも墨汁を使うのことが一般的になり、自分で墨を硯ですることを経験しない人が大半となっています。そして、デジタルデバイスの普及により、自分で文字を書くことも少なくなり、簡易な文字文化のみが残っている現状。本来は、墨をすり、心を落ち着け、文字を書く。その作法に書道の心が見出せるはずです。

新しい書道文化を確立する方法を模索するために、本プロジェクトでは、まず書道や道具の有識者にインタビューを実施し、書道文化が置かれている現状を把握、問題点を浮き彫りにしてから、実際に硯を製作します。

製作においては、書家や彫刻家などのアーティスト、デザイナーと協力し、新たなデザインコンセプトがもたらす形を模索していきます。それを基に全体として理想の文房具や新しい文化を創造していくプロジェクトです。

製作した新しい硯は、ギャラリーでの発表やイベントの開催を予定しています。同時に自由大学と提携し、実際に雄勝の現地を訪れ職人と硯製作を体験し、道具をつかう文化を見直していく機会を設けます。